女性の働き方のご紹介vol.18
鍼漢方担当医 山内 明子 先生

Column

2021年7月29日

Q.鍼漢方外来を行うまでの道のり

大学を卒業してから、 一般の動物病院で代診を行っていましたが、 出産を機に仕事を辞めて二人目が生まれるまでの4年間は完全に育児に専念していました。 その後、 育児だけの生活に物足りなさを感じ、 時間の融適が利く働き方はないのかと模索しながら、以前から興味があった東洋医学の勉強をし始めました。
子どもが小学生に入学し、 少し手が離れた時にホリスティック診療のみの動物病院に勤め、 西洋医学以外の治療の必要性を強く感じました。 いつかは自分自身でホリスティック専門の診療をと思っていましたが専門診療で雇ってくれる病院はなく、 臨床 とは全く別の検査センターなどで働きながら往診で鍼をしている時期もありました。 その頃、 飼い猫の具合が悪くなってしまい、今の動物病院に飼い主として来院し、 院長と仕事についてのお話しができたことがきっかけで、 ホリスティック専門の診療で仕事をさせてもらえることになったのです。 当初は診療日は決まっておらず、 鍼灸治療が必要な時だけ予約制の診療をしていました。
その後、 だんだん患者さんがついてくれるようになり、 2013年からは曜日を決めての鍼漢方 外来という形になり、 今は週3回 の診療を担当しています。 私の外来は問診に時間がかかるため一般外来と比べて診察できる数も少ないのですが、 理解ある獣医師やスタッフに支えられ、 専門診療のみに専念して働くことができる今の恵まれた環境をとてもありがたく思っています。

Q.東洋医学を始めたきっかけ

大学時代も卒業後の代診時代も、 自分の健康を顧みずに忙しく過こしていました。しかし、 妊娠し切迫流産しそうになった時に 「健康」に生きていくということ がとても大事なことだとわかったのです。 出産や子育てを適して自然体の大切さに気付き、 子どもには過剰な医療はしたくないと思うようになり東洋医学に 興味をもつようになりました。
私にはアレルギーがあるのですが、 「健康」という事に自分自身が向き合うようになって、 東洋医学の知識が深まり漢方薬の効果も感じる様になりました。 そのような経験があってから、 犬や猫も同じなのではないのかなと思い、 獣医療として東洋医学を学ぶようになりました。
東洋医学の鍼灸がヘルニアなどの病気に効果があるのは知られていますが、そのような病気だけでなく内科疾患や問題行動など様々な疾患に効果があります。
東洋医学は個々の自然治癒力に働きかけていきますが万能ではないので、 西洋医学 の治療と合わせていくことで相乗効果が生まれることも多く、 外来ではその2つ のバランスを大事にしています。 中には、 東洋医学だけをしたいという患者さまもいますし、 獣医師のなかでもどちらを優先するかの意見が食い違うこともあります。 また、 今の飼い主さまはインタ ーネットで色々な情報を確認できる ので偏った情報をインプットしてくる方 もいらっしゃいます。 治療方針は、 動物 の性格やこ家庭の環境など色々な状況によって変わってくるので、お話をよく聞くことで動物と飼い主さまにとってのベストを提供したいと思っています。

Q.食養生とは

東洋医学は鍼灸と漢方と食養生が3つセットになっている医療なので、 食事はとても大事な要素です。 例えばいくら鍼灸で治療しても、 その子の食餌が大袋入りの安くて粗悪な食事だった場合、 治療の効果は打ち消されてしまうことがあります。
確かに、 動物病院で獣医師が食事の話をよく聞いたり話したりすることは時間がかかり効率は悪いこと かもしれません。 しかし、 人が入院したとき病院には必ず栄養士さんがいますし、 また入院ではなくても病気で食事の指導をされる方は多いと思います。 動物も同様で今後の獣医療は動物の食事についてきちんと考えていくべきですし、 私自身、 食事指導は今後力を入れて いきたい分野だと思っています。

Q.育休ブランクからの復帰で思うこと

子育ての時は、 仕事などを含めやりたいと思うことも沢山あるのにできない状況で、 育児をストレスに感じたり、 結婚をせずにバリバリ働いている人をみてうらやましいなと思ったこともありました。
育児だけをしていた時期は、 普適のお母さんと同じようにPTAの役員や地域の委員など色々なことをしてみました。 今になって思えば、 獣医師ではなく一人の主婦として様々な立場の人と接することで、 様々なコミュニケ ー ションの仕方を学びましたし、 我が子はもちろん沢山の子どもたちの成長を間近で見ることができたのは何にも代えがたい財産となりました。
その経験があったからこそ、 今は飼い主さまの背景などを想像して診療の幅が持てるようになったと感じます。
もちろん一度ブランクがあいてしまうと、 できなくなってしまうこともありますが、 「今、 自分にできることをする!」と切り替えました。 できないことはできる人と連携していくことで、 より良い獣医療を提供していければいいと思います。

Q.今後やっていきたいこと

いつの時代も自分なりに人生設計はなんとなく立てていました。 20 代は仕事など何事にもチャレンジをする。 30 代は子育て、 40代は学びのインプットというように。そしてこれからの50 代は今までの経験や学びをアウトプットする時期だと思っています。 未来の60代は心豊に暮らすことかな(笑)。 その都度、 そうしようと思ってここにたどり着いた訳ではないのですが、 自分でなんとなくやりたいことを意識していたことで、 ホリスティック医療を専門にできる今の場所にたどり着いたのだと思います。